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ダンス写真界の巨匠・柳沢雅彦が贈る「美少女の肖像」
井上穂奈美の撮影日記 その3
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この前は、とんだ撮影中のトラブルについてお話しいたしました。でも、今日は、ひょんなことから撮影が異常に盛り上がってしまった話をしましょう。私たちの行く先々では、いつも何か、おもしろい「事件」が起きるんです。
クリスマスの晩とは違い、見物人も一緒になって楽しんだのが、桜の季節に都内の公園で撮影したときでした。中学生になったばかりの私を柳沢さんが満開の桜の木の下で記念撮影するという舞台設定でした。もちろんスタッフが目立たないように、私をサポートしてくれています。ところが撮影を開始するとともに、いつものように私たちの周りに人だかりができてしまいました。
それも黙って見物しているだけではありません。みんな大きな声で話しています。「ほんとにキレイ…」「こんなにキレイな子は見たことない」「いやオレはTVで見たことあるよ。でも名前は知らない」「じゃあ、コマーシャルにでも出てたのかしら」「桜の花は例年のようにキレイだけど、この子は、もっとキレイだな」。若い人からお年寄りまで、みんな好き勝手なことを言っています。ふり注ぐ、みんなの熱い視線を浴びて、さすがに私も照れてしまいました。
「いいねー。穂奈美ちゃんの頬がピンク色に染まってきたよ。キミの顔が桜の花のように見えてきた」柳沢さんはノリノリです。それにしても見物人が、どんどん増えていきます。フィルム交換のために後ろを振り返った柳沢さんは、あまりの人だかりにギョッとしました。もはや私たちは身動きできないほど包囲されていたのです。柳沢さんはアシスタントに「マズイな。どこからかガードマンが出てこないか心配だな」と言いました。
するとアシスタントは「先生、それよりも公園の中に警察の派出所がありますから、パトロールのお巡りさんに撮影を中止しろと言われないか心配です」と答えました。「よし、わかった。とにかく問題を起こすな。写真集の撮影だなんていうとパニックになるから、この際、内容を明かすのはやめておこう」柳沢さんはスタッフ一同に、そう伝えました。
それから10分もしないうちに、とうとう柳沢さんまでアマチュアカメラマンに捕まってしまいました。「もしかしたら、いつもカメラ雑誌に出ている柳沢先生じゃありませんか」。さらにはフィルムを入れ替えるたびに「今日は何の撮影ですか」「この女優さんの名前を教えてください」と聞かれる始末。「せっかくだから、私も記念に1枚撮らせてもーらおっと…」。その人は私ばかりか、ちゃっかり柳沢さんのスナップ写真まで撮っていました。
さらには先ほどまで遠慮がちに見物していた人たちも、ついにビデオカメラを回すようになりました。これでは、まるでモデル撮影会です。私たちが飛び入りで花見見物の人たちに催しを提供しているようなものです。柳沢さんが広角レンズを使おうとすると、私たちを取り巻く大勢の人たちまで写りこんでしまうようでした。「おかしすぎて笑えない」温厚な柳沢さんも、さすがに渋い表情です。なかなか撮影に集中できず、困り果ててしまいました。
「先生、スチールは仕方ないにしても、ムービーだけは遠慮してもらいましょうか」すかさずアシスタントが柳沢さんに聞きました。「いや、できるだけトラブルは起こしたくない。それに見物人のなかには酔っ払っている人もいるだろうから、万一、モデルがからまれたら、私が時間かせぎしているスキに、彼女だけ、そっと逃がしてほしい」そう柳沢さんは指示を出しました。
そうこうしているうちに、いつしか、すぐ間近で「なつメロ」をハーモニカ演奏する人まで登場しました。とうとうバックミュージックの生演奏までついてしまったのです。「やっぱり自然体が一番だ。すべてはキミの魅力のせいだ」ようやく柳沢さんの顔に笑顔が戻りました。
いつ何が起こるかわからないのが私たちの仕事です。たった1年間の撮影でしたが、ずいぶん人生勉強させてもらったような気もします。だれにも負けないほど密度の濃い12才でした。私のもとに皆さんからの質問が山のように来ています。次回の9月19日(火曜日)には、それにお答えいたします。お楽しみに…。
井上穂奈美
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