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ダンス写真界の巨匠・柳沢雅彦が贈る「美少女の肖像」



 井上穂奈美の撮影日記 その2 

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 でも、いつも撮影が順調に進んだわけではありません。時には、信じられないような苦労もしてるんです。とんだトラブルに巻き込まれて、途中で撮影を断念したときの話をしましょう。よりによって、それは楽しいクリスマス風景を撮影していたときでした。

 いわゆる「やらせ」を極端に嫌う柳沢さんは、実際に都内のクリスマス・ツリーの下で撮影したいと言ってきました。もちろん私は喜んでOKしました。スタジオなんかでインチキくさい演技をするのは嫌だったし、せっかくなら、いくら仕事のためとはいえ、本物のクリスマス・ツリーを見てみたかったからです。

honamiイメージ この夜ばかりは、いつもの大がかりな撮影機材ではなく、コンパクトカメラだけでした。「大丈夫です。これ1台でも十分に、いい写真は撮れます。安心してください」柳沢さんは笑顔で、そう言いました。スタッフ一同、そんな柳沢さんを信頼しています。この人は手品師みたいなもので、いつも後になって、ステキな写真を出してみせるのです。

 柳沢さんは、いつものように写真を撮り始めました。「いいねー」「キレイだ」「そうそう、とってもいい表情だ」。とにかく、この人は写真を撮るのが早いんです。私に対して、特にポーズを注文することもなく、ものすごい勢いでシャッターを切り、アッというまにフィルムを数本撮ってしまいます。

 「さあ、次は、あっちへ行ってみよう」。柳沢さんの元気な声とともに私たちが移動しはじめると、いつものように幾人かの見物人が後ろからついてきます。こんな小さなカメラなのに、プロの写真家だってわかるのかな。不思議…。もちろん見物するのは、その人の勝手です。柳沢さんは、いくら撮影のためだからといっても、周りの人たちを無理やり締め出すほど厳しくありません。「みんなの空間は大切にしなければならない」それが、いつもの口ぐせでした。

 でも、この夜は違っていました。どこからかガードマンのような人が出て来て「すぐに撮影をやめてください」と柳沢さんに伝えました。「えっ、なんですか?」と柳沢さんが聞き返すと「通行の流れを妨げるから、ただちに撮影を中止してほしいんです」と制服の人は答えました。

 びっくりした柳沢さんは「だれも通行止めなんか一切していませんよ」と言い、さらに「通路だって、まったくふさいでいません」と言い張りました。それでも相手は「やめてください」を繰り返すばかり。今度は柳沢さんが聞き返しました。「どうしてアベックや親子連れが、みんなツリーの下で幸せそうに記念写真を撮っているのに、私だけはダメなんですか。よく見てください。私だって同じコンパクトカメラですよ」。

 すると制服の人は「とにかく、この子がいるだけで、みんな立ち止まるんです。そして見物人の人垣ができてしまうんです。それでは困るんです。きっと女優さんでしょ。こんなにキレイな女の子が、女優でないはずはない」。柳沢さんも、そう簡単には引き下がりません。「じゃあ、なんていう名前ですか」。相手はニコリともせず「私は知りませんが、確かにテレビで見た記憶があると、みんなが話しています。これ以上の混乱を引き起こさないでください」とキッパリ答えました。

 とうとう柳沢さんはあきらめました。「わかりました。あなたの立場もあるでしょうし、今夜は、これで帰ります。でも、これだけは言わせてもらいます。私たちは、だれにも迷惑をかけていません。みんながクリスマス気分を味わっているのだから、あなたたちの出る幕じゃないような気がします。もちろん私たちの撮影風景を眺めるのも通行人の自由です。せっかくのムードをブチ壊しているのは、制服姿のあなただと思うんですが…」。

 今日のお話は、どうでしたか。いくら写真集のための撮影といっても、いろいろあるんです。たった1人の女の子を守るだけなのに、時には、こんなに苦労をすることも…。それで撮影は、どうなったかって? 仕方なく場所を変えました。でも出来上がった写真を見て、びっくり。とってもスゴイ写真が撮れてました。さすが柳沢さんは、プロ中のプロです。皆さんも、きっと驚くと思いますよ。次回は9月13日(水曜日)です。お楽しみにね。


井上穂奈美






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